第32章 流れゆく時代
島の中心部の広場へ行くと、やはりというか…あちこちで諍いが起きている。
とある酒場では、女が異常な量の食事をみるみるうちに平らげ、足りないと騒ぎ立てる。
そしてその一方では、ウエイターが海賊の服にスパゲティを零してしまい、今にも剣を抜きそうだ。
そして今ここでは、とある海賊たちのケンカがまさに始まるところだった。
ガシャーン!!
けたたましい音を立てながら、2人の男がやり合う。
ひとりは、大柄で空島出身を思わせるような翼を持つ男。
そしてもうひとりは、マスクのような仮面を被った顔もわからぬ男。
(どちらも手配書で見たことがあるヤツらだな…。)
“殺戮武人”キラーと“怪僧”ウルージ。
…これは面白いショーになりそうだ。
ローはスポーツ観戦でもするように、その場に腰を下ろした。
ギィン…!
ガキィン…!
しかし、数度刃を交わした時のこと。
「…いい加減にしろ! ここで諍いを起こすな。」
2人の間にひとりの男が割り込んだ。
(あの男は…。)
“赤旗”X・ドレーク。
元 海軍少将という異例の経歴を持つ海賊だ。
急な割り込みにケンカをしていた当人たちは興醒めしたらしく、一瞬睨み合いをした後、それぞれ別の方向へ去っていった。
「…今、いいところだったのに。」
せっかくの試合を邪魔され、ローはドレークに声を掛ける。
「…お前は。」
ドレークもこちらを知っているのだろう。
訝しげにこちらを一瞥した。
海軍を裏切って、わざわざ海賊になるとは酔狂な男だ。
彼になにがあったのかは興味がないけど、正義面をしたその手が、どれほど血に塗れているかは興味がある。
「ドレーク屋、お前…何人殺した?」
「……。」
“死の外科医”トラファルガー・ロー。
気味の悪い男だと思った。
目の下には大きな隈。
医者とは思えぬ、薄ら寒い笑みを浮かべている。
(関わり合いにならない方がいいな…。)
ドレークはローの問いには答えず、そのまま立ち去った。
もし、この時、2人が互いに あのミニオン島の事件に関わっていると知っていたら、なにか変わったのだろうか。
ローがドフラミンゴから上手く逃げられたのは、あの時ドレークが海軍に保護されたことをドフラミンゴが勘違いしたおかげ。
そんなこととは夢にも思わず、2人の視線は交わらぬまま…。