第32章 流れゆく時代
アイスバーグは彼らになにがあったのかを聞かない。
“あの子”の行方も聞かない。
仲間と別れたのか。
はたまた命を落としたのか。
彼らには彼らの物語がある。
そこへ自分が踏み込むのは、ルール違反だと思う。
自分の役目は、彼が“あの子”のために依頼した船を間違いなく届けることだけ。
「ンマー!! 確認してくれ、これが今日からお前たちの船だ。」
ドックの船着き場に堂々と停泊する船は、目も覚めるような黄色。
そしてなにより他の船と違うのは、そのフォルム。
潜水ができるよう、水圧に耐えられる材質でできた船体は、全体的に丸くて可愛い。
それでいて普通の船のように海上を走ることも可能になっている。
「おぉ~ッ、これが俺たちの船かァ!」
「かっけー!!」
「早く海に出てみたいなぁ!」
それぞれが感嘆の声を上げる。
「どうだ、気に入ってくれたか?」
注文者であるローに確認をすると、彼は満足げに頷いた。
「ああ…、悪くねェな。」
そして我が物顔で船内へと足を運ぶ。
注文していた部屋も、設備も、全てがローの思い描く通りだ。
(さすがは政府御用達の造船所ってところか…。)
正直、ここまでとは思っていなかった。
支払った料金以上の仕事ぶりに、満足するしかない。
「…気に入った。」
一言そう漏らせば、アイスバーグは「当然だ」とばかりにドヤ顔の笑みを見せた。