第31章 旅立ちの風
『悲しみって、いつか消えゆくもので。』
「なァ、もしかしてソレ…、セイレーンじゃないッスか?」
「セイレーン…?」
聞き慣れないワードにローは眉をひそめて問い返した。
知らない言葉のはずだ。
それなのに、すごく身近にあった言葉のように感じるのは、なぜなんだろう。
「あれ、知らないッスか? セイレーンってのは、綺麗な歌声で男たちをメロメロにして、船を沈没させちゃうっていう海の妖精ッスよ。」
美しい歌声に引き込まれて近づけば、あっという間に心を奪われ、船を転覆に導く魔性の妖精。
船乗りであれば、セイレーンの伝説を1度は耳にしたことがある話だろう。
しかし、興味のないことには とことん無頓着なローは、その話を知らないようだ。
(セイレーン…。)
心の中で呟くと、ザワリと胸が震えた気がした。
『優しさって、贅沢にさせてしまうもの。』
「……?」
「どうしたんスか、船長。」
ベポと同じように、シルフガーデンを見つめるローにペンギンは訝しげに尋ねた。
「……イヤ。」
微かに歌声が聞こえたような気がしたんだ。
ビュウゥゥ…。
強い追い風が吹き、船の速度がいっそうグンと上がった。
(……チッ、俺までベポのヤツに影響されたか。)
ベポが歌声だなんだと騒ぐから、つい自分まで そんなふうに聞こえてしまったではないか。