第31章 旅立ちの風
『運命なんか変えていけるんだって、船に乗って海へ出た。』
「あれ……?」
追い風に助けられ、ぐんぐん前へ進む船の上、ベポが首を傾げた。
「どうしたんスか、ベポ。」
「うーん、なんか…聞こえたような気がしたんだけど。」
「あん? なんかって、なんだよ。」
シャチもペンギンも耳を澄ませてみるけど、なんにも聞こえない。
獣であるベポは、人間の自分たちより感覚が鋭い。
もしかしたら、自分たちに聞こえないものが聞こえているのかもしれない。
『あの日、雪が降る公園で、迎えに来てくれるのを待っていた。』
「んー、なんだろ。……歌かな?」
「「歌ァ……?」」
はぁ? という反応をされるけど、でも本当に、微かな風に乗って歌声が耳に届くのだ。
「ねぇ、キャプテン。キャプテンは聞こえない?」
ベポの問いかけに、ローも耳を澄ませてみた。
しかし、耳に入るのは、ビュウビュウと吹きすざぶ風の音だけ。
「イヤ…、聞こえねェな。」
ローの答えにベポはガックリと肩を落とす。
「えー…? じゃあ、やっぱりボクの耳が変なのかなァ。」
「たぶん、風の音が人間の声にでも聞こえたんスよ。」
よくある怪奇現象などは、だいたいそんな理由なんだから。
「でも…、本当に歌みたいに聞こえたんだよ。」
優しくて、そして少し悲しげで。
でも、温かい歌。
なかなか納得できず、ベポはたった今、自分たちが後にした島を振り返った。