第31章 旅立ちの風
「どうしたの、キャプテン。…もしかして、キャプテンも歌が聞こえた!?」
期待を込めた眼差しを向けられ、フンッと鼻で笑った。
「ただの風の音だろうが。」
「えー…。」
「いいから さっさと仕事をしろ、航海士。」
いつまでも遊んでんじゃねェ、と吐き捨てる。
「…使えないクマでスミマセン。」
ガラスのハートを持ったクマは、その場に崩れ落ちた。
まったく、それはそれで面倒くさい。
「でも船長、本当にセイレーンかもしれませんよ。試しに見に行ってみます?」
美しい歌声の妖精は、きっと美女であるに違いない。
だとしたら、ひと目だけでも拝みたいものだ。
シャチがうへうへと笑う。
まったく、コイツらときたら…。
少しは緊張感を持ったらどうだ。
「くだらねェ…。だいたい、そのセイレーンとやらに どんな力があるのかは知らねェが、たかが歌ごときに惑わされるなんざ、よほど腑抜けた連中なんだろうな。」
歌声に惑わされて、船を沈没させる…?
バカらしい。
やれるもんならやってみせろ。
そんな怪物がいたならば、俺がこの手で倒してやる。
フフッとローは冷酷に笑い、シルフガーデンから視線を外した。
『ねえ、幸せよ。だって、わたし…、あなたがいるんだから…。』
旅立ちましょう。
それぞれの道へ。
あなたは、わたしより夢を選んで。
それでいい…。
「さァ、おしゃべりは終わりだ。黙って仕事をしろ。」
「「アイアイサー!」」
ぐんぐんと海を走る海賊船。
この日、囚われの身であったセイレーンは、誰にも知られずに、グランドラインの無人島へと解放された。