第31章 旅立ちの風
ドクン…ッ。
その時だった。
モモが下腹部に自分のものではない鼓動を感じたのは。
「……ッ!」
そっと膨らんでもいないお腹に手を当てる。
胎動どころか、まだちゃんとした形にすらなっていないであろう、わたしの宝物。
でも、今、確かにこの子が生きる音が聞こえたんだ。
「ごめん…、ごめんなさい…ッ。わたし、ひとりじゃないよね。」
今も、そしてこれからも。
モモはずっと、ひとりじゃない。
「きゅきゅぅ…。」
彼女の緑の相棒が、寂しさを埋めるかのように擦り寄ってくる。
「ヒスイ…、ごめんね。あなたもいるね。」
小さな身体を抱き上げた。
「ねえ、あなたは本当にこれでいいの? 船に残ったって、良かったのよ?」
ヒスイだって、ハートの海賊団の立派なクルー。
自分に付き合って、船を降りることはなかったはずだ。
「きゅい…!」
冗談じゃない、と強く鳴いた。
ヒスイは海賊である前に、モモの相棒なのだ。
モモがどんな決断をしたって、どこにだってついて行く。
ローの代わりに、ずっと彼女と…2人の子供を守っていく。
それが、ヒスイの使命。
それが、ヒスイがこの世界に生まれた理由だと思うから。
「……ヒスイッ」
形が変わるほど強く抱きしめるモモに、小さな手をそっと回した。