第31章 旅立ちの風
ゆっくりと向きを変え、島から離れていく海賊船をモモは島の中心から見ていた。
「…ぅ…ッ」
少しずつ去っていく船の船尾が、仲間たちの、ローの背中に重ねて見える。
涙が後から後から溢れ出す。
衝撃が胸を突き、立っていることもままならない。
へたり込み、拳をキツく握っても、涙を止めることができない。
「…待っ…てッ、…いッ…行かないで…!」
自分が望んだことなのに、泣き叫ぶのを止められなかった。
「うぅ…、あ…ッ」
行かないで…
行かないで…!!
おいていかないで…ッ!
ずっと一緒にいたい。
傍にいたい。
傍にいて欲しい。
愛してる。
愛されたい。
あなたの傍で、生きていたい…!
ずっと我慢していたものが、とめどなく溢れてくる。
精一杯の強がり。
精一杯の嘘。
『嘘ぐらい吐け。それもできないくらいじゃ、この腐った世界を生きていけない。』
ローの言葉が頭に響く。
あなたの言うことは、いつも正しい。
でもわたし、自分の心にだけは嘘が吐けないわ。
「ロー…! ひ、ひとりに…しないで…!」
最愛の人を恋い慕う叫びは、向かい風に掻き消された。