第31章 旅立ちの風
「出航の準備をしろ!」
船へ着くなり、ローは船を出すように命じた。
「「アイアイサー!」」
急いでいるわけではないが、無駄な時間を使ってしまった。
しかも変に昼寝をしてしまったせいか、ズキズキと軽く頭が痛む。
船の準備を仲間たちに任せ、自分は自室へと戻ることにする。
ガチャリ。
「……?」
なんだろう、長年使っている自分の部屋なのに、なんだかすごく広く感じる。
それもやけに小綺麗だ。
(掃除をしたのは、いつだったか…。)
ついつい研究に没頭してしまい、掃除は疎かにしてしまっている。
最近掃除をした覚えはない。
ならばローがいないときを見計らって、クルーの誰かが掃除をしたのだろう。
(たまには気が利くじゃねェか。)
うちの船にそんな使えるヤツがいたとは驚きだ。
「…ふぅ。」
ドサリとソファーに腰掛け、寛ぐ。
「……。」
なんだろう、この部屋はこんなに静かだったか?
ローの部屋なんだから、ローしかいないのは当たり前。
それなのに、どうしてだろう。
物足りないと、寂しいと感じてしまうのは。
「チ…ッ。」
寂しいだって?
いつから自分はこんなに女々しい男になったのか。
そんなふうに思ってしまった自分にイラつき、テーブルをガンと蹴飛ばす。
それでも苛立ちは治まらず、いてもたってもいられなくてソファーから立ち上がった。
そしてそのままベッドへと寝転がった。
その時…。
ふわり。
シーツに染み付いた香りが、ローの鼻をくすぐった。
「……ッ」
途端にギュウッと胸が締め付けられた。
(な、なんだ…?)
とても安心する。
でも、心が乱れる。
この香りは、なんだ…。