第30章 宝よ眠れ
『ずっと考えていたの、言えなかったけど…。』
「…! なんだ…?」
いきなり唄い出したモモに驚き身構えた。
『不安な心をそっと、隠すように笑ってた。』
「モモ、どうしたの…こんなときに!」
歌なんか唄ってる場合じゃない。
ベポもシャチもペンギンも、この展開が理解できない。
けれど、モモは歌を止めない。
『愛しいから壊した…。』
「……ッ!?」
突如、ローを目眩が襲う。
「あれ…、なんか…クラクラする。」
それはローだけでなく、3人も同じようで。
(なにを…している…?)
『心から離れて……消えた。』
「オイ…、なにをしてる。オイ…--!」
瞬間、異変に気がついた。
名前が呼べない。
愛しい彼女の、名前がわからない。
まさか…、と思ったときにはもう遅かった。
次第に激しくなる目眩は、立っていることすらままならなくなる。
『さよなら。あなたと別れを選ぶほど、素敵な未来を見たいの。』
「ぅ…うあ…。」
背後でドサッと3人が倒れる音がする。
「く…ッ」
ローも堪らず膝を付いた。
揺れる瞳で見上げると、とても悲しげに見つめる彼女と目が合う。
『こんなに綺麗な未来があるのなら、悲しんでられないでしょう?』
頭の中に、変化が起きた。
【キャプテン、あそこに誰かいるよ。】
【…あ?】
それはエターナルポースを奪う目的で、海軍の船を襲ったときこと。
夜の海をベポが指差した。
見ると、そこには傷ついた少女がひとり浮かんでいた。
…はずなのに。
少女の姿だけ、記憶からサラサラと抜け落ちていく。
「…う、…あァ。」
ベポの指さす先には、誰もいなかった。