第30章 宝よ眠れ
今、なんと言った…?
彼女の口から発せられた言葉がぐるりと頭を回るけど、うまく理解できない。
「……なんだと?」
ようやく発した声は、掠れていた。
けれどモモは容赦なく告げる。
告げなくちゃいけない。
「わたしは今日、船を降りるの。」
「お別れよ、ロー。」
これは、夢か…?
今、彼女はなんと言ったのか。
「な、なに言ってんのさ、モモ!」
「どうしちゃったんスか…?」
「冗談にしちゃ…度が過ぎるぜ。」
次々と驚きの声を上げる仲間たちの声が、夢でないことをローに教えた。
「…てめェら、少し黙れ。」
地を這うような声に、全員口を噤んだ。
「…モモ、お前もくだらねェ冗談言ってんじゃねェよ。今すぐ船に戻れ。」
仲間たちが息を飲んだ。
完全にブチ切れている。
しかし、モモはあくまで冷静に、そして淡々と答えた。
「冗談なんかじゃない。…本気よ。」
それを聞いて、ビキリとローの額に青筋が立つ。
「俺を、怒らせてェのか…。」
空気が震えるような怒気が、その場につたう。
だけど、モモは怯まなかった。
それくらいで変わる決意なら、最初からしない。
「今なら言い訳くらい、聞いてやるが…。」
遠回しに、言い訳しか聞いてやらないことを伝えた。
「…ごめんね。」
モモは悲しげに微笑む。
「謝罪は船に戻ってからにしろ!」
いっこうに戻ろうとしない彼女に、ついに堪忍袋の緒が切れ、もう1歩踏み出したとき、モモが強く言い放った。
「もう決めたの…!」
しっかりとローの瞳を見据えて。
彼女の金緑色の瞳が、意志の強さを現す。
それが本気であることローに告げた。
心が、怒りと失望でいっぱいになる。
「……ッ、なぜだ!」
誰かに心変わりでもしたか。
だったら、その男を殺してやる。
エースか、ホーキンスか。
それとも別の誰かか!
自分からモモを奪おうとするヤツは誰であろうと許さない。
例え、モモ自身でも…!
射殺さんばかりの視線をモモへ向け、怒りのあまり、拳がわなわなと震えた。
そんなローに、モモは静かに告げた。
ずっと隠してきた、わたしの秘密…。
「お腹に、赤ちゃんが出来たの…。」