第30章 宝よ眠れ
いろいろあったなぁ…。
海軍の船から逃げ出して、目を覚ましたら、この船の上だった。
目を開けたとき、手配書と同じ凶悪顔がすぐ目の前にあって、すごくビックリしたっけ。
初めてローの部屋に入ったとき、薬草を見つけて、思わず手を出しちゃったのよね。
あの時、ローに仕事を任せてもらえて嬉しかった。
そういえば、バスルームで鉢合わせだこともあったよね。
あれは、死ぬほど恥ずかしかったな。
そのあと、ローに「ガキの身体に興味ない」とか言われて、あれは最低だよね。
なのに、急に「俺の女にする」だなんて言ってさ。
絶対なるもんかって思ったのに、本当になっちゃったよ。
後から後から、思い出が溢れてくる。
海軍に追われるわたしを、迎えに来てくれたのも この船。
ローと初めて身体を交えたのも この船。
ヒスイと出会ったのも この船。
今までの人生が薄っぺらく感じてしまうくらい、激動の日々。
その日々の中心は、いつだってこの船で。
ここは、わたしの居場所だった。
この船が、わたしとローを、わたしと仲間たちを出会わせてくれた。
ここから、全てが始まった。
ここから、モモは海賊になった。
だけど、もう、二度とここへは戻らない。
ありがとう、ありがとう。
あなたのおかげで、わたしは海賊になれた。
「オイ、行くぞ、モモ。」
どうせ転ぶんだから、とローが手を差し出す。
「…うん。」
その手を取り、ハシゴに足をかける。
「行こう、ヒスイ。」
「きゅい…。」
ヒスイも今度こそ振り返らずに、モモの肩へ乗った。
モモとヒスイの下船は、誰にも知られることなく、2人だけでひっそりと行われた。
さようなら、わたしの愛する居場所。