第30章 宝よ眠れ
夕食後、モモが入浴に向かったまま帰ってこない。
ローはソファーに座りながら、気になってページの進まない本を持て余す。
女の風呂は長いとはいえ、これは長すぎだ。
またなにか やらかしているのでは…。
ここで様子を見に行ってしまうのが、仲間内で『過保護』と言われる所以だが、気になるものは仕方がない。
読みかけの本をほっぽり出して部屋を出る。
シャワールームの前まで来てみたが、部屋の明かりは消えており、中に人の気配はない。
(…どこ行きやがった?)
一度気になったら、姿を確認できるまで心が落ち着かなくなる。
安心するためにもモモを探し始めた。
とりあえず1番近いキッチンに行ってみるけど、やはりここにもいない。
ならば、いつかのように医務室でうたた寝でもしているのか。
そう思って踵を返そうとすると、キッチンからデッキへ続くドアが少しだけ開いていることに気がついた。
(外にいるのか…?)
モモはデッキの上で、柵に身を預けながら夜の海を眺めていた。
明日の朝には、シルフガーデンに着く。
そう思うと、眠れる気がしないのだ。
ああ、でもそろそろ戻らないと。
ローが心配してしまうから…。
そうは思っていても、足はなかなかその場を動いてくれない。
そうこうしているうちに、こちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。
モモにはもう、足音だけで誰だかわかってしまう。
「オイ、なにしてんだ。…湯冷めするだろうが。」
バカか? と言わんばかりの口調の裏には、たくさんの心配がこもっている。
「ロー。」
そのぶっきらぼうな言い方が嬉しくて、彼に抱きついた。
大きくて優しい手が、モモの髪を撫ぜる。
「ホラ、冷たくなってんじゃねェか。」
そう言って、暖かい腕がモモの身体を包んでくれた。