第30章 宝よ眠れ
「ねえ、モモ。モモがこの船に来て、そんなに月日が経ったわけじゃないのに、いろんなことがあったよね。」
「…そうね。」
「モモは出会った頃、言葉を話せなかったけど、しゃべれなくてもいっぱいお話ししたね。」
ベポは人の気持ちに敏感だ。
そのおかげで彼とは言葉に出さなくても、いつでもおしゃべりできた。
でも、どうして今、そんなこと言うのだろう。
ベポの横顔を窺うけど、ジッと薬草を見つめる彼の表情からはなにも読み取れなかった。
「モモさ、覚えてる? 一度ボクたちに黙って船を降りたことがあったこと。」
「…うん。」
忘れるわけがない。
みんなのことを好きになってしまうのが辛くて、一刻も早く離れたくて、この船から逃げ出した。
「あの時、ボク…悲しかったんだ。すごく。」
友達ができたと思った。
一緒にいて欲しかった。
でも、彼女はいつの間にか消えてしまった。
誰にもなにも言わず。
「……。」
ベポの言いたいことがわかってしまって、言葉に詰まる。
「モモ、もうどこにも行かないよね? ずっと一緒だよね?」
こちらを見つめるつぶらな瞳が、不安げに揺れた。
ベポは人の気持ちにとても敏感。
だから、どんなに隠しても、どこかでモモの変化に気づいているのだ。
だけどもし、ここで彼に負けてしまったら、全てが無駄になる。
「当たり前じゃない、いつも一緒よ。」
安心させるようにモモは微笑む。
「…だよね! ゴメン、変なこと言っちゃってさ!」
照れるように頭を掻き、ベポは再び薬草に水をやり始めた。
嘘じゃないわ。
例えどんなに離れていても、この空の下で、いつでも一緒だから。
ねえ、ありがとう。
あの夜、わたしを見つけてくれて、ありがとう。
さようなら、わたしの親友。