第30章 宝よ眠れ
「見て、モモ。この薬草、蕾がつき始めたよ。」
ジョウロ片手にベポが手招きする。
「あら、本当だ。ベポが丁寧にお世話してくれたおかげね。」
もう少ししたら、きっと可愛い花が咲く。
でもその頃には、この船に自分はいない。
「へへ…、楽しみだなぁ。」
ゴロリと寝転がり、蕾を見つめるベポは まるで森のクマさんだ。
モモはそのすぐ隣に腰を下ろし、彼にもたれかかった。
「ベポ。…あなたには夢はあるの?」
そういえば彼の夢を聞いたことがない。
「ボク? んー、夢っていうのかなぁ。ボクはずっとみんなで旅ができればそれでいいよ。」
もしそれが夢なら、ベポの夢はとっくに叶ってる。
「ボクさ、キャプテンに出会うまで、ずっとひとりだったから、こんなふうに旅ができることが幸せなんだ。」
ベポの過去について、なにも聞いたことはないけど、きっと彼にとっては人生を動かす出来事だったに違いない。
モモと同じように…。
「モモの夢は、世界一の薬剤師になることだよね。」
「…うん。」
母から授かったこの腕で、この船で培ったこの知恵で、誇れるようになったこの歌で。
世界一の薬剤師になってみせる。
「モモなら絶対になれるよね。ボク、応援してるから!」
「ありがとう、ベポ。」
ごめんね、ベポ。
みんなの夢は、ここでないと叶えられないけど、わたしの夢は、ここじゃなくても叶えられるから。
だから、わたしは陸の上で世界一の薬剤師になるわ。