第30章 宝よ眠れ
ぶふッ、と本当に血が吹いた。
……鼻から。
「ちょ、大丈夫!?」
慌ててハンカチを差し出す。
「…大丈夫ッス。ちょっと刺激が強すぎて。」
「刺激? なに言ってるの? とりあえず横になって。」
モモはポンポンと自分の膝を叩く。
(……膝枕ッ!?)
グフッとさらに血が吹き出た。
「きゃ…ッ、ほら…早く!」
身悶えるペンギンの頭を問答無用で引き寄せた。
柔らかな太股にペンギンの頭が乗る。
「……モモ。」
「なあに? 辛い?」
「俺、もう死んでもいい…。」
むしろここで船長に見つかって殺されても本望だ。
「そんなこと、冗談でも言っちゃダメ。ペンギンが死んでしまったら、わたしが悲しくてどうにかなっちゃう。」
窘めるようにキツくハンカチを押し当てた。
「…ゴメン。」
また空気の読めないことを言ってしまったようだ。
素直に謝罪する。
「なァ、モモ。」
「ん…?」
「今だから言ってもいいッスか?」
なにを? と尋ねれば、ペンギンはハンカチで顔を覆ったまま、ゆっくりと答えた。
「俺、出会った頃…モモのこと好きだったんだよ。」
「え……ッ!?」
思ってもみない告白に、変なところから声が出てしまった。
「はは…、なんつー声だしてんだよ。」
「いや…、だって…!」
こちらこそ、なんということを言うのかと聞きたい。
「前の話ッスよ。モモと船長がくっついてからはさすがに諦めたし。」
そうは言っても動揺は隠せない。
前っていつ?
そんな素振りあった?
直球型のシャチと違い、フワフワとしたペンギンは掴みどころがわからない。
思い返してみるけど、もともとそっち方面に弱いモモには心当たりなど、まるでなかった。