第5章 あなたになら
「座れ。」
船長室に入るとローはソファーに座り、モモに隣へ座るように促した。
「……。」
モモはひとり分間隔を空けて腰掛けた。
「オイ、なんでそっちに座んだよ。」
(だって…。)
「いいからこっち来い。」
トントンと隣を叩かれて、仕方なくそちらへ座った。
「…いい子だ。そのまま背中を見せろ。」
(ぅえ!?)
せ、背中!?
「さっき海兵のヤツに殴られてたろう。様子が見てェ。」
(だ、大丈夫だから!)
ブンブンと首振って拒否する。
「ふざけんな、てめェのモンに傷を付けられたんだぞ。いいから見せろ。」
グイッとパーカーの裾を引っ張られる。
(しかも下から!?)
慌てて押さえつけた。
下から脱がされたらモモは下着一枚になってしまう。
「俺に脱がされたくないなら、自分で脱ぐことだな。俺はどっちでもいいぜ?」
意地悪そうにニヤニヤする。
(ひ、ひどい…。)
モモは涙目になりながら、クルリと背中を向ける。
どっちにしろ選択肢はひとつしかないじゃないか。
パーカーのファスナーを下ろして緩めると、はらりと背中をさらけ出した。
「チッ…、アザになっちまってるじゃねェか。」
キャラメル色の長い髪を掻き分けると、痛々しく鬱血した痕が見られる。
「アイツ、やっぱり殺しておくべきだったな…。」
ツ…とローの指が背に触れた。
「--ッ」
その体温に、感触に、モモは肩を大きく跳ねさせる。
バクバクと心臓が激しく音を立てた。
(や…、心臓の音、聞こえちゃう…!)
パーカーを握る手を小刻みに震えさせながら、必死に耐えた。
「モモ、覚えとけ。そういう反応は男を煽るだけだ。」
え、と思った瞬間には、モモはローに後ろから抱きしめられていた。
ふわりとローの香りがしたと思えば、首筋に温かくて柔らかい感触を感じた。
チュッ
ローの唇が首筋を這った。
(なッ……痛!)
突然の行為に驚くと同時に鋭い痛みを与えられる。
強く吸われたのだ。
(な、なにして…。)
「キスの痕を付けてんだよ。俺のモンだという印だ。」
キスの痕…?
そういう知識に疎いモモは、その意味をよく知らない。