第5章 あなたになら
その夜はモモの歓迎会と称して宴が催された。
急な場面でも、調達できるものはしっかり補充したらしい。
船を降りる前よりも、食材は豊富だ。
歓迎会と言いながらモモは給仕係に徹していた。
もてなされるより、そうする方が好きだったし、なりより美味しい食材は美味しく料理してあげないと。
「うぃ~。これから毎日モモのメシが食べられるなんて幸せだなぁ…ヒック。」
「そうっスねぇ!船の雰囲気も華やぐってもんで…ヒック。」
2人ともすっかり出来上がっている。
「モモ~、モモも一杯飲もうよ~!」
ベポまでが酔っ払っている。
呂律が回ってない。
(お酒はあんまり…。)
以前、薬酒を飲んで目を回したことがある。
それ以来、自発的に飲むのは控えている。
「えー、なんだ、つまんない。」
ごめんね、と代わりに杯に酒を注いであげる。
隣にいたローの杯も空になりかけていたので、一緒に注ぐ。
満たされた杯を、ローはなんでもないように煽った。
(お酒、強いなぁ…。)
みんながベロベロになる中で、彼だけが顔色も変えずに黙々と飲んでいる。
ぼんやりと眺めていたら、ローがこちらを向いた。
「…ッ」
思わず目を逸らしてしまう。
(だって、だって、さっき…。)
キス、した…。
生まれて初めての経験。
柔らかな感触を思い出してしまうと、一気に血が上り顔を上げることが出来なくなる。
「クッ…、可愛いことだな。」
(か、からかわれてる!)
どうせ、いっぱいいっぱいなのは自分だけだ。
「モモ~? どうしたの、顔赤いよ~!」
(な、なんでもないから…。)
ローの視線に耐えきれなくなって、そそくさと立ち上がりキッチンを出た。
(ちょっと風にでも当たろうかな…。)
看板に上がろうとしたとき、後ろから呼び止められた。
「モモ。」
ドキン、と心臓が跳ねる。
振り向けば、ローも宴から抜け出しモモを追って来ていた。
「ちょっと来い。」
クイッとあごで示され、船長室に歩いて行く。
正直、まだ2人でいるのは心臓が保たないが、無視するわけにいかない。
とぼとぼ着いて行く。
(そういえば、まだお礼も言ってない。)