第30章 宝よ眠れ
「みんなー、聞いて聞いて。」
その日の朝食時、ベポがエターナルポースを手にウキウキと言った。
「この分だと、次の島…シルフガーデンには、明日の朝には着くよ!」
明日の、朝…。
思っていたより数日早い。
モモの心臓はドクンと嫌な音を立てた。
「明日の朝かー。モモ、良かったじゃん。」
「…うん!」
胸の内を悟られまいと、笑顔を作る。
(なにを今さら動揺しているの…。覚悟はとっくにできているわ。)
テーブルの下でギュッと拳を握りしめる。
今日が最後の1日なら、やりたいことは決まっていた。
「すごいわ、シャチ。すっかり様になってる!」
手際よくシャッシャッとフライパンを振る彼は、もうどこから見ても“料理男子”だ。
「ふふん、まぁな! って、本当はモモの教え方がいいからだよ。」
「そうかな?」
「ああ、モモはいつでも良い母親になれるぜ。」
「…ほんと?」
「あ、やべッ。女の子に母親とか言っちゃいけねぇんだった。」
過去にそれで失敗でもしたのか、あわあわと慌てふためく。
「ふふ、そんなことないわ。…嬉しい、すごく。」
「そうか…? お前、変わってんなー。」
「ねえ、シャチ。わたし、ずっとあなたにお礼が言いたかったの。」
「…は? なに、急に。」
ガラリと変わった話題に、シャチはパチクリと瞬く。
「わたしがまだ口を利けなかった頃、猛毒クラゲを釣ったこと、覚えてる?」
「…ああ、そんなことあったな。」
刺されたら命を落とす猛毒クラゲ。
そうとも知らず、触ろうとしたモモをローが庇い、腕を刺されてその場に倒れた。
「あの時、あなたはわたしを一言も責めなかったわ。」
それどころか、船長なら大丈夫だと励ましてくれた。
シャチがいなければ、モモは罪悪感に押しつぶされ、歌を唄うという決断もできなかったかもしれない。
「あなたがいてくれて、本当に良かった。」