第29章 最後の出航
その日の朝は、雲ひとつ無い晴天だった。
カプワ・ノールに上陸してから1週間が経ち、ついにログが溜まった。
「ふぁー、いい天気だなァ。」
気持ちのいい風が吹き、海賊旗がバタバタとはためく。
絶好の出航日和だ。
街へチラホラと遊びに行っていたクルー達も、出航を意識して船に戻っている。
「ええっと、酒に食料…買い忘れはないッスね。」
すでに出航モードに入る仲間たちに、モモは内心焦った。
(メル…、ダメだったかな。)
いくらメルディアでも、アレを手に入れるのは難しかっただろうか。
なにしろ、需要が少ないために市場にも出回りにくい。
(ダメならダメで、諦めるしかないわ。)
どうしても必要、というわけではない。
ただ、選ぶならそこがいいと思っただけで。
「モモ、さっきからずっと外を気にしてるけど、なにか待ってるの?」
そう気にするベポは、相変わらず人の気持ちに目ざとい。
「…うん、メルを待ってるの。」
「ああ、そういえば…あれから会いに来ないね。」
メルディアがモモのために動いていると知らないベポは、不思議そうに首を傾げた。
「きっと、仕事が忙しいのよ。」
アレが手に入らないにしろ、旅立つ前に彼女の顔が見たかった。
「船長ー! 準備は整いましたぜ。そろそろ船を出します?」
「…ああ、そうだな。」
それを合図に帆を縛るロープが外された。
風を受けてバサリと広がる。
(……メル。)
自分のワガママに付き合わせてしまって、ひと事謝りたいけど、それも無理だろうか。
「錨を上げろ!」
ローがそう指示したとき、モモの目が港へ誰かが駆け寄ってくるのを捉えた。
「…モモ!」
「メル…!」
待ちわびていた彼女の姿に、波で船が揺れるのも構わず船から降りた。