第29章 最後の出航
それから数日間、モモは仲間たちの目を盗んでは出航に向けて準備を始めた。
まず、これまで書き溜めていた研究調書は一字一句頭に叩き込んだ後、全て燃やした。
きっとこの先、ローの役に立つこともあっただろうが、これが残っていると都合が悪い。
この船でモモが成し遂げたことが燃えていく様には、ひどく胸が締め付けられたが、そんなことではダメだと自分を奮い立たせる。
次に、鏡台や大きなプランターなど、かさばるものをいくつか売った。
どれも思い出詰まった品々。
売りたくなんてなかったけど、こればかりは仕方ない。
売ったお金で大きめのキャリーケースを買う。
モモの荷物はそれほど多くない。
キャリーケースひとつで十分事足りるはず。
準備は整った。
あとは、メルディアを待つばかり。
「…なんか、部屋がやけにスッキリしてねェか?」
さすがにこれだけ片付けてしまえば、気づかれないはずがない。
しかし、それは想定内。
あらかじめ考えておいた言い訳をする。
「最近、部屋の掃除を怠けてたから、気合い入れて片付けたの。」
「それにしちゃァ、いろいろとなくなってるようだが…。」
第一、怠けていると言うが彼女が毎日掃除をしていることは知っている。
「ああ…、鏡台ね。うっかり鏡を割っちゃって、処分したの。せっかく買ってもらったのにごめんなさい。」
「割った…? 危ねェな、ケガは?」
ドジなモモのこと、片付ける際に指を切っていてもおかしくない。
「…大丈夫。」
まず先に自分を心配してくれるローに、罪悪感が溢れる。
「ならいいが…。新しいやつを買う必要があるな。」
「ううん、大丈夫。鏡なら、バスルームのもので十分だから。」
そもそもモモは化粧をしない。
本来なら化粧品や香水が置かれるべき鏡台は、丸薬や医学書置き場と化しており、本来の機能を果たしていなかった。
「お前はもうちょっと、年頃の女のように……イヤ、もういい。」
いくら言ったって、そういうものにモモが興味をしめさないことはわかってる。
ローは早々に諦めた。