第29章 最後の出航
「んん…、ロー…わたしにも…教えて。」
角度を変えて何度も口づけるローに尋ねた。
自分だけ言わされるのなんてズルイ。
「お前の唇は甘くて好きだな。」
チュッと音を立てて唇を食まれる。
「ふ…、そうじゃ…なくて。」
どこに恋してくれたのかが知りたいのに。
「………。」
正直、最初は彼女の利用価値に惹かれた。
自分の女にしてしまえば、それが1番良いと考えた。
それは、ただの支配欲。
それがいつ“恋”に変わったのか、ロー自身ですらわからない。
ただ、確かなことは…。
「…この唇から紡ぎ出される言葉が好きだ。」
言葉を紡げぬ彼女が、初めて声を発したあの瞬間。
『…危ない、ローッ!』
あの瞬間を自分は決して忘れないだろう。
あれほどまでに心が乱れ、感動したことはない。
モモが自分の名を呼ぶ。
それだけで世界がこんなにも変わるものだとは知らなかった。
ローが自分の恋心を自覚したのは、その時だろう。
支配したいのではなく、傍にいて欲しいと、守りたいと思ったのは。
「お前のバカみてェに素直なところが好きだ。」
「それって…、褒めてるの?」
モモは知らないかもしれないが、この世界で純粋なままでいるのは難しい。
特に、人間の汚れた部分を知れば知るほどに。
自分だってそうだ。
コラソンと出会うまでは、全ての人間が滅べばいいと本気で思った。
彼の死した今は、ドフラミンゴへと怒りと憎しみだけが自分を強くし、純粋な心など見る影もない。
ところが、モモはどうだろう。
目の前で海賊に両親を殺され、海軍には罪もない理由で追い回される。
友と信じた者に裏切られても、ひどい仕打ちを受けようとも、彼女は誰も憎まない。
友を許し、憎むべき両親の仇ですら解放した。
とてもじゃないけど、真似できない。
モモは世界の闇を見ているはずなのに、それでも汚れることなく、真っ直ぐに生きる。
そのバカみたいな直向きさが、眩しいくらい愛おしい。