第29章 最後の出航
「………。」
モモの要望にしばし言葉が出なかった。
「…聞き違いか? 今、なんつった。」
確か、ローは『欲しいもの』を聞いたはず。
「だから、あなたがわたしのどこを好きになったのか教えて欲しいの。」
むしろ聞き違いであって欲しいと思った言葉を、彼女は繰り返し言った。
「俺は欲しいものを聞いたはずだが…?」
どうしたらそんな回答になるのか。
「うん、それがわたしの欲しいものよ。別に目に見えないものでも構わないでしょう?」
だって、わからないんだもん。
彼が自分を気に入ったのは、きっと腕の立つ薬剤師だったから。
モモを「俺の女にする」と言ったのは、その方が都合が良かったから。
でも、その先は?
いつからモモに恋をして、
いつからモモを愛してくれたの?
知りたい、知りたい…。
知って心に刻みたい。
「教えて…。」
強請るように見上げれば、ローはまだ水気を含んだ髪をガシガシと掻き乱し、ドカリとソファーへ腰掛けた。
「…お前は、どうなんだよ。」
「え…?」
「俺のどこを……イヤ、なんでもねェ。」
途中まで言って、フイと顔を逸らされる。
なにを言ってんだ俺は…と、呟くローの耳は赤い。
それが堪らなく愛しくて、モモは我慢できずに、ローの隣へと腰掛けた。
「照れ屋なところが好き。」
「……あ?」
振り向く顔は、俺のどこが照れ屋だと言いたげだ。
「あと、その目つきの悪いところが好き。」
「…趣味悪ィな。」
もっと言えば、その悪い目つきが優しい眼差しに変わるところがとても好き。
「ヤキモチ焼きなところも、可愛くて好き。」
「……。」
嫉妬深いことは否定できないが、そこを可愛いなどと言われてしまえば、なんとも言えない気分になる。
(可愛いのは、お前だろ…。)