第29章 最後の出航
ローがお風呂から上がると、モモはすでにキッチンにおらず、自室でなにやら荷物の整理をしていた。
「なにやってんだよ、そんなに服を引っ張り出して。」
「うん、たまには整理しないと荷物が溢れちゃうから。」
そう言って、いつかローが買い与えた服を整理しているが、モモは溢れるほど荷物を持っていない。
彼女が買うものといえば、いつも薬や調剤器具ばかりで、私物らしい私物がほとんどないのだ。
「お前、なんか欲しいモンはねェのか。」
「…欲しいもの?」
「ああ、もっと仕事以外にも目を向けたらどうだ。」
例えば他の仲間たちのように。
ペンギンは無類の酒好きで、珍しい銘柄のコルクやラベルをコレクションしている。
シャチは釣り好き。
何本もの釣り竿と自作のルアーなど、意外と手先が器用だ。
ベポもなにかコレクションしているようだが、彼の拾ってくるガラクタは、ゴミにしか見えない。
「じゃあ、あなたの欲しいものはなに?」
「俺の…?」
「そうよ。あなたこそ、仕事以外になにか趣味でもあるの?」
質問に質問で返してしまうようだが、ローこそ研究ばかりで、他に趣味があるとは思えない。
ふむ…、と手を顎に当てて真剣に考えた。
俺の趣味か…。
「研究以外と言われれば、『お前』くらいしか思い当たらねェな。」
「……。」
つまり、趣味はモモだと…そういうこと?
「あなたって…、たまにスゴいこと言うわよね。」
好きや愛してるは、照れてなかなか言ってくれないくせに。
「あ? どこがだ。」
無自覚らしい。
自分の発言が、どれだけの破壊力かわからないのだ。
それならば、とモモは先ほどの問いの答えを思いつく。
「ロー、わたし 欲しいものがあるわ。」
「なんだ、言ってみろ。」
珍しくも欲を言う彼女に、ローは少しだけ心を弾ませた。
モモが欲しいと言うなら、どんな高価なものでも必ず手に入れたい。
「あなたが、わたしのどこを好きになったか知りたい。」
あなたの気持ちが欲しい。