第29章 最後の出航
食事を終え、使い終わった食器を洗おうと流し台に立つと、ローが近づいて来た。
「俺がやる。」
「どうしたの、別に大丈夫よ。」
「…いいから、貸せよ。」
モモが持つスポンジを奪おうとする。
彼女の体調を気にしてのことだ。
しかし、モモはスポンジを渡さない。
「ありがとう、その気持ちだけで十分だから。」
これは自分の仕事だ。
手伝いなら素直に受けられるけど、丸投げはモモの性分的にできない。
「頑固なヤツだな、いいから座ってろよ。」
「大丈夫だってば。…病人みたいな扱いをしないで。」
きっと近頃の体調不良はバレてしまっているだろう。
だからあえて強がった。
実際、メルディアに全てを吐き出したせいか、今はすこぶる体調が良い。
(確かに顔色は悪くねェが…。)
でも…。
モモの目元にそっと触れる。
「目が腫れてる…。」
「……!」
ドキリとして手に持つ皿を落としそうになった。
メルディアの前で、目が溶けるほど泣きわめいたせいで、あの後のモモの顔はヒドいものだった。
とても船に帰れたものではなかったが、メルディアの『むくんだ顔もスッキリさせるテクニック』でなんとかマシな顔に戻してもらい、こうして帰ってきたのだ。
おかげで遅くなってしまったけど。
「…女の子に向かって、顔が腫れてるとか、パンパンだとか言っちゃいけないのよ。」
「俺はそこまで言ってねェ…。」
ただ目元が腫れてると言っただけなのに。
ちょうどその時、デッキのプランターで寝ていたヒスイがキッチンに顔を出した。
「あらヒスイ、起きたのね。ちょうど良かった、手伝ってくれる?」
「きゅいッ」
ピョンと飛び跳ねたヒスイが流し台に乗る。
「…オイ。」
「ヒスイが手伝ってくれるから、大丈夫よ。ローはお風呂にでも入ってきてね。」
有無を言わさず回れ右をさせられ、ローはため息を吐きながら言うとおりにした。
(良かった、誤魔化せたみたい…。)
涙の理由を明かすわけにはいかない。
モモはローが引いてくれたことに、心から安堵した。