第29章 最後の出航
この船で2人きりで食事をするのは、いつぶりだろう。
船にはいつだって、愛する仲間たちがいるから、こうして本当に2人きりになること自体そうそうない。
「みんながいないと、すごく静かね。」
おしゃべり好きの3人がいないと、必然的に静かな空間が出来上がる。
「アイツらがうるさすぎるだけだ。俺はこれくらいがちょうど良い。」
騒がしいのは好きじゃない。
もともとローは、ひとりの空間が好きなのだ。
でも、彼は気づいているだろうか。
そんなことを言いながらも、近頃のローは自室に籠もることが少なくなった事実に。
「いいじゃない、騒がしくたって。みんなでいる方が、楽しいでしょう。」
「…楽しくねェよ。」
嘘ばっかり。
今、一瞬 瞳が揺れたよ。
照れ隠しなのか、おにぎりに食らいつくローをモモは温かな気持ちで見つめた。
世間で恐れられる冷酷で無慈悲な死の外科医は、本当は優しく仲間想い。
そして、ヤキモチ焼きで あまのじゃく。
照れ屋で、とびっきり愛情深い。
わたしだけが知っている。
この世界で、わたしだけが…。
ロー、あなたはいつまでも そのままでいてね。
わたしがいなくなっても。
「どうした…?」
「え…?」
なにが、と首を傾げるモモは、いつもの彼女。
でも今、どことなく悲しそうに見えたのだ。
「イヤ、…なんでもねェ。」
気のせいか…。
ローは一瞬感じた違和感を忘れ、再びおにぎりをかじった。
なァ、モモ。
もし俺があの時、お前の違和感に気づけていたら、俺はお前の選択を変えることができたのか?
でも俺は、もう後悔することもできない。