第29章 最後の出航
「モモ! やぁっと帰ってきたのか、おかえりー!」
メルディアと別れ船に戻ると、3人ともホッとしたように出迎えてくれた。
「……? ただいま。」
安堵した表情が、自分を心配して…というものとは少し違っているような気がして首を傾げる。
モモはさっきまでローがどれほど機嫌が悪かったかも、そのローに3人がどれだけ苦労してたかも知らない。
(これでやっと遊びに行けるッス…。)
(キャプテンのご機嫌も直るね!)
(ああ、八つ当たりされずにすむな。)
モモさえ傍に置いておけば、なにも心配いらない。
「じゃ、俺らはちょっと遊んでくるから!」
「うん、いってらっしゃい。」
モモを生け贄にして、シャチ、ベポ、ペンギンは意気揚々と船を降りる。
そうとは知らないモモは、呑気に笑って3人を見送った。
「ロー、夜ご飯は食べたの?」
日はすっかり傾き、空には星が輝き始めている。
「食ってるヒマがあると思うか? 誰のせいで街中を駆け回ったと思ってる。」
ローはまだモモにご立腹のようで、詰るような言い方をする。
「…ごめんね? お詫びにローの好きなもの作るから、許して。」
「ガキか、俺は。そんなんで許すわけねェだろ。」
甘く見るな、と切り捨てられた。
しかし、モモとてローの扱いには慣れているつもりだ。
「焼おにぎり、作ってあげるよ。」
「……。」
好物をチラつかせると、一瞬黙った。
その隙を見逃さない。
「お味噌汁の具はなにがいい? 豚汁とかはどうかな、野菜もいっぱい入れて。」
すかさず次のエサをチラつかせる。
「そうだ、倉庫に寝かせておいたお酒が、そろそろいい具合になる頃なの。…ロー、運ぶの手伝ってくれる?」
「…チッ、仕方ねェな。」
倉庫へ向かうモモのあとを、渋々ついてくる。
横目で彼の表情を窺えば、いつも通りの不機嫌顔。
でも、わかるのよ。
今、すごく楽しみになってるでしょう。
ローとの勝負に勝って、モモは気づかれないよう微笑んだ。