第29章 最後の出航
「……!」
仲間たちから再び船の外へ視線を戻したローは、こちらに近づいてくる人影を2つ確認した。
ダン…ッ。
そしてハシゴすら使わずに船から降りる。
「…あ、ロー。ただいま!」
モモたちも迎えに降りてきたローに気がつき、笑顔を向ける。
「遅せェ、どこに行ってた。」
薬屋に行かなかったことは確認済みだ。
どうせメルディアがモモを連れまわしていたに違いない。
ギロリとメルディアを睨む。
「あら、怖い。そんな顔をしないでちょうだい。」
メルディアは大げさに肩をすくめてみせる。
「わざとらしいんだよ。どうせお前がコイツを連れまわしたんだろ。」
ローはモモの腕をとり、自分の方へと抱き寄せた。
その仕草があんまりにも独占欲剥き出しで、思わぬ子供っぽさに、メルディアはくすりと笑ってしまう。
「人聞き悪いわね。ちょっと私の宿でガールズトークしてただけじゃない。」
「くだらねェもんに巻き込むんじゃねェよ。」
「ちょっと、ロー…。」
別にモモは一方的にメルディアに連れ去られたわけじゃないのに、ローときたらまるでメルディアが悪者のように噛みつく。
「わたしがメルと一緒にいたかったんだから、そんな言い方しないで。」
「ほう…。そりゃァ、俺よりもメルディアと一緒にいてェってことか。」
「ええ…?」
どうしてそうなるんだか。
相変わらず、一度拗ねると面倒くさ…いやいや、機嫌を直すのが大変なんだから。
「はいはい、ご馳走さま。私はこれで退散するから、あとは2人でやってちょうだい。」
「え、メル。船に寄っていかないの?」
てっきり寄っていってくれるものと思っていたのに。
「遠慮するわ。誰かが怖いし。」
「…もう、ローったら、睨むの止めて。」
未だメルディアを睨むローの頬を軽く抓った。
「…それと、ちょっと用事があるのよ。船にはまた今度遊びに行くわ。」
「……。」
きっと、その用事はモモのお願い事のことなのだろう。
「まあ、安心して見てなさいよ。」
任せろ、とメルディアの目が語っている。
「…うん、待ってるね。」
一見、遊びの約束にしか聞こえないやり取りが、2人の間で交わされた。