第29章 最後の出航
「……遅せェ。」
ローは船のデッキで、もう何度目かの言葉を呟いた。
「そんなにイライラしなくても、大丈夫ッスよ船長。メル姐さんは、もうモモに危害を加えたりしませんって。」
「そういう問題じゃねェんだよ。」
苛立ち最高潮のローをなんとか宥めるけど、一蹴されてしまった。
モモがメルディアに連れ去られたあと、ローはすぐさま2人を追った。
しかし、あの女ときたら、逃げ足だけはやたらと早い。
すっかり撒かれてしまったのだ。
あの2人が互いに良い友情を築いているのは知ってるし、ああ見えてメルディアは腕が立つ。
彼女がついているなら、そうそうモモに危険が迫ることはないだろう。
それはわかっている。
…が、わかっていてもメルディアにモモを易々と奪われ、独占されることに、ローはどうしたって苛立ちを隠せない。
「チ…ッ。メルディアのやつ…、ただじゃおかねェ。」
忌々しく舌打ちをするローの後ろで、コソコソと話し声が飛んだ。
(つーか、女相手に独占欲強すぎだろ。)
(いや、きっとメル姐さんってところがミソなんスよ。ほら、女同士の友情って、男が入り込めないところがあるし…。)
(つまり、キャプテンはメルディアにヤキモチを妬いてるの?)
(そこは間違いねぇだろ。)
(女にまでヤキモチって…。モモも大変ッスね。)
「…てめェら、なんか言ったか?」
地を這うような、ドスが効いた声が船に響く。
「「いえ、なにも言ってません!」」
不機嫌MAXのローに、全員声を揃えて返答する。
モモ、早く帰ってきて!
船長が怖い…!!