第28章 心の痛みを
「私ね、自慢じゃないけど、友達っていなかったのよ。」
「え、そうなの?」
意外だ。
メルディアは社交性に優れているから、数え切れないほどの友達がいそうだから。
「もちろん、知り合いはたくさんいるわ。数え切れないくらいね。でも、友達かって聞かれたら、違うと思う。」
己の心の内をまったく見せずに、嘘の笑顔で作ってきた知り合いたち。
上辺だけの笑顔で作った知り合いは、所詮上辺だけの付き合いにしかならない。
「あなただけよ。私の心の底まで見ても、私を友達だって言ってくれた人は…。」
それがどれだけ嬉しかったか、きっとモモは知らない。
それからモモと別れて、ひとりで旅をして見た景色が、嘘みたいに輝いていたこともきっと知らない。
私が海賊をやめようと決意したのは、あなたのおかげなのよ。
傍にいなくても、モモの言葉が、存在が、メルディアに勇気をくれた。
「モモ、ずっとお礼が言いたかったの。私と、友達になってくれてありがとう。」
長らくひとりきりで戦っていた彼女の手が、モモの手をそっと包み込んだ。
「あの時、私に歌を聞かせてくれて、ありがとう。」
自分の目を覚まさせてくれた『大好きの歌』を。
別れ際に唄ってくれた『友達の歌』を。
今でもずっと、メルディアの力になってる。
だから…--。
「今度は私に、あなたの力にならせてちょうだい。友達って、そういうものでしょう?」
いつかのモモの言葉を、今度はメルディアが言った。
「………ッ」
プツンとモモの中で、なにかが切れる音がした。
それと同時に金緑の瞳から、大粒の涙が溢れる。
強くなりたかった。
ひとりでも大丈夫なように。
ひとりでも生きていけるように。
でも、目の前の友達は、それを許してくれない。
それが、とてもとても嬉しかった。
わたし、ひとりじゃないのね…。
「メル…、わたし、わたしね…--。」
ずっと胸に抱えていた秘密を、彼女にだけ話すことを決心した。