第28章 心の痛みを
わたし…?
なんのことかわからなくて、モモは目を瞬かせた。
「うふ、なんのことかわからないって顔ね。」
「…だって、わからないもの。」
メルディアが夢を見失ったとき、立ち上がるきっかけを与えたのは、確かに自分だ。
しかし、それは本当にきっかけでしかない。
彼女は自分の力で立ち上がり、今を生きている。
そこに自分の存在など、ありはしない。
「モモ、私ね。海賊の頃は、すごく汚い人間だったのよ。」
他人の心の隙間に入り込み、弱い部分をつついて内側から腐らせていく。
メルディアという海賊は、そういう類の人間だった。
誰かを愛するフリをして、利用していく。
それは時に恋人だったり、友達だったりした。
でも心の底から愛したりしない。
だって、それがメルディアの強さだったから。
だというのに、メルディアは本気の恋をしてしまった。
“強さ”を失ったメルディアは、自身を守る術もなく、ただ地獄に堕ちるしかない。
そんな真っ暗闇の中、モモに出会った。
最初は愛する人の命令で近づいた。
友情や愛情という言葉に弱そうな彼女は“友達”というワードをチラつかせただけで、嘘みたいに自分を信用してくれた。
初めのうちは、それを愚かだと思っていたのに、いつからだろう、それが可愛いと思うようになったのは。
モモと過ごした時間は、メルディアに小さな幸せを与えてくれた。
まるで、本当に友達ができたような、そんな錯覚。
しかし、メルディアはそれを壊さねばならない。
愛する人の命令だから。
そして、全てが終わり、なにもかも失ったメルディアは、本当に空っぽな人間になってしまった。
あの時の虚無感は、思い出すだけで恐ろしい。
だけど、そんな自分にモモは言ったのだ。
『友達』だと。