第28章 心の痛みを
グイグイとモモの腕を引いてローを振り切ったメルディアは、ご機嫌だった。
だって、思ってもない人に出会えたから。
酒場でやけにおもしろい話をする一団がいた。
空島。
そんな夢物語を本気で語る連中がいたのね。と様子を伺うと、どうにも顔に見覚えがある。
「まさか、こんなに早くあなたと再会できるなんて夢にも思わなかったわ!」
「…うん、…わたしも。」
ウキウキとするメルディアに対して、返ってきた声は元気がない。
「もう、なによ…! 嬉しいのは、私だけなの…--。」
不満に思って振り返ったとき、メルディアはモモの顔色を見て言葉を失った。
ものすごく顔色が悪い。
「ちょっと、あなた…真っ青よ! 大丈夫…!?」
酒場は昼間でも薄暗かったから、全然気がつかなかった。
太陽の下で見てみると、ギクリとするほど具合が悪そうだ。
「うん…、大丈夫。」
「うそ! まったく大丈夫に見えないわよ…ッ」
ジワリと冷や汗まで掻くモモに、メルディアはどうしたらいいかわからずに狼狽えてしまう。
「ほんとに…、大丈夫だから。…ちょっとだけ、目眩がするだけ。」
そう言ってモモは、限界を迎えたのかその場にしゃがみこんだ。
「やだ…、しっかりして! どうしよう…。」
メルディアには医療に関する知識がほとんどないので、こんなとき どうしたらいいのかわからない。
「そうだわ、ローを呼んできてあげる! 少しここで待ってて…。」
「ダメッ!」
踵を返そうとしたメルディアの腕を、モモは強く掴んで止める。
あまりの気迫にメルディアはしばし呆然としてしまった。
「…どうして?」
「どうしても…。…お願い、メル。ローに知られたくないの。」
切実ともいえるモモの様子に、メルディアは息を飲んだ。
モモ…。
あなた、いったい…、どうしたの?