第28章 心の痛みを
彼は嘘のような冒険話を自国の王へ報告し、その話を信じた国王は危険な海へ出て黄金郷を目指したのだ。
しかし、そこにあったのは、ただのジャングル島。
ノーランドは、うそつきの罪で処刑されたのだという。
「北の海では知らないヤツなんていないくらい、有名な話なんだぜ。」
その話を知らなかったモモに、シャチが絵本の内容を教えてくれる。
「北の海にはそんな話があるのね。でも、それが空島になんの関係があるの?」
聞いた限りでは、なんの関係もないように思えるが。
「この“うそつきノーランド”は実話なんスよ。」
「んでもって、こんな噂もあるんだぜ。」
消えた黄金郷は空にある。
「…空に? どうしてそんな話になるの?」
「黄金郷の元となったとされる“ジャヤ”という島は、突き抜ける海流…ノックアップストリームの多発地帯だからだ。」
「ノックアップストリーム?」
突き抜ける海流だなんて、仰々しい。
どんなものか、まったく想像できない。
「ノックアップストリームは、その名の通り、海面から突き抜ける海流なんだ。間欠泉の何千倍も威力がある水流は、島だって空に持ち上げるパワーがあるんだよ。」
「北の海の男なら、黄金郷の真相を突き止めに行かねぇとな!」
シャチが少年のような瞳でキラキラと言う。
空に島が浮かぶなど空想だ。
そう誰もが言った。
しかし、空に島が浮かんでいないと証明できた者はいない。
「なら、行ってみるしかねェだろ。」
それに、空島にあるとされる貝殻は一部の機関では高額で取引されている。
ローは間違いなく、空島は存在すると考えているのだ。
(空島…か。)
いつか、ローの口から空島の存在を教えてもらったとき。
あの時は、彼の隣に自分がいると、当たり前みたいに信じてた。