第28章 心の痛みを
その日、モモが自室で書き物をしていると、カサリと紙が擦れるような音がした。
「……?」
不思議に思って音の出どころを確認すると、机の隅に飾ってある瓶の中で、小さな紙切れがカサカサと動いている。
(これは確か…ビブルカード。)
ただの紙切れにしか見えないソレは、カードを作った本人の居場所を教えてくれるらしい。
モモが持っているビブルカードは2つ。
初めての女友達メルディア。
同い年のエース。
2人のうち、どちらかが近くにいるのだろうか。
「モモー。島が見えたよ、デッキに上がってきたら?」
船の外でベポがモモを呼ぶ。
どうやらカプワ・ノールが見え始めたようだ。
(だとしたら、もしかして…あの島にどちらかがいるのかしら。)
モモは瓶を手に、期待に胸を膨らませてデッキに上がった。
「お、モモ。やっと部屋から出てきたのか。仕事の虫め、そんなとこばっかり船長に似なくてもいいのに。」
そういうシャチは、もう少し仕事をした方がいいと思う。
胡乱な目を向けてやると、シャチはそんなことを気にした様子もなく、モモに手招きする。
「ほら、ほら…あそこ。島が見えるだろ!?」
毎度のことだが、彼らは島を発見すると異常に興奮する。
もちろん、ローを除いてだが。
自分と違っていくつもの島々を旅してきたはずなのに、無邪気な子供のような反応をする彼らの心は、いつまでも少年のままなのだろう。
それを少しだけ、羨ましいと思う。
モモもそんなふうに無邪気のままでいられたら、どれだけ良かったことか。
彼らと共に島の発見を喜べるのは、もう最後かもしれない。
瞬間、ズキリと貫いた胸の痛みに涙が出てしまわないよう、必死に笑顔を貼りつけた。