第28章 心の痛みを
「なァ、モモ。お前…最近ちゃんとメシ食ってるか?」
デッキで洗濯物を干していると、突然シャチに声を掛けられた。
「急にどうしたの、シャチ。ご飯はちゃんと食べてるわ。」
「そうとは思えねぇけど…。」
近頃のモモときたら、食事の支度をしたあと、仕事を理由にみんなと一緒に食事を摂らない。
たまに一緒に食べたかと思えば、「そんなんで腹がふくれるか…!」ってほど、ちょっぴりしか食べないのだ。
それのせいだろう、彼女の顔色は日に日に悪くなっている。
(船長…、きっと気づいてるはずなのに、なんで言わねぇんだよ。)
ローはモモが言い出すのを待ってくれているのだが、そんなことを知らないシャチは、ローが行動を起こさないことにヤキモキし、ついに声を掛けてしまった。
「心配してくれてるの? …ありがとう。でも、わたしはみんなと違って、たくさん食べなくても十分なのよ。」
むしろみんなが食べ過ぎなのだと、やんわりと言った。
しかし、マイペースなペンギンならともかく、しっかり者のシャチは、そんなことで誤魔化されてくれない。
(仕方ないな…。)
モモはあまり言いたくなかった“理由”を教えることにする。
「…生理中なの。」
「……え?」
ボソッと言ったモモの言葉を、つい聞き返してしまう。
「だから…、生理中なのよ。だから少し調子が悪いだけ。」
恥ずかしくて、プイッと顔を背ける。
「あ…、あぁ…ッ! 悪ィ、俺…。勘違いしちまって…! ご、ごめんな?」
わたわたと慌てるシャチに、モモはふるふると首を振った。
「いいの、心配してくれてありがとう。」
「その…、身体辛ぇだろ? ここは俺がやっとくから、ほら、寝てろよ!」
無理やり洗濯物をブン取られた。
「いいのに…。…えと、ありがとう。」
「いいって、いいって!」
ニカッと笑うシャチに甘え、モモはその場を任せた。
『嘘くらい吐け。それもできねェくらいじゃ、この世界を生きていけない。』
ローの言葉が脳裏をよぎる。
(うん、あなたの言う通りだわ。)
でも、嘘を吐いた代償に、胸が締め付けられるほど…痛い。