第28章 心の痛みを
「…きゃッ」
突然 宙に浮いた身体に焦り、モモは激しく狼狽する。
「別に落としやしねェよ。」
こうやってしょっちゅう抱き上げているのに、やけに敏感に反応したモモに、「俺を信じられねェのか」と尋ねた。
「…そういうことじゃないけど、驚くから止めて。」
ローときたら、いつもモモを人形かなにかのように抱き上げる。
そりゃ、抱き上げる方は、力に自信があるからいいかもしれない。
けど、抱き上げられる方にだって心の準備だったり、バランスをとったりと色々大変なんだから。
「ローは抱き上げられたことがないから、わからないのよ。」
頬を膨らませて抗議する。
一方、ローはといえば、心外そうに目を開く。
「どんな体勢だろうが、俺が落とすわけねェだろ。」
ローにとって彼女は宝物だ。
自分の宝を傷つけるようなヘマを、俺がするとでも…?
ずいぶんとナメられたものだ。
モモの方こそわかっちゃいない。
「だいたい、お前がいつまでたっても、俺の方を向かないからだろ。お前が悪い。」
彼女が最初から自分を優先させていれば、こんなことにもならないのだ。
「しょうがないじゃない。今まで調合できなかった分を取り戻さないといけないんだから。」
加えてドラム王国で手に入れた冬島の薬草。
これも早く薬に変えてしまいたかった。
「そんなもん、そのうちやりゃァいいだろ。時間はあるんだ。」
「それ…は…。」
ローの指摘に、次の言葉を紡げない。
「それとも、なんだ。早く作らなきゃならない理由でもあるのか?」
早く作らないといけない理由は…。
「…だって、いつみんながケガや病気をするか、わからないでしょう? 薬の準備は常に万全の方がいいわ。」
もっともらしい理由を並べれば、ため息を返された。
「俺らはお前と違って丈夫にできてる。そんな心配すんじゃねェよ。」
安心しろ、と頬を撫でられた。
ズキン…。
胸が痛い。
ロー、そのうちじゃ遅いのよ。
わたしには、時間がないの…。