第27章 決意
(薬も分けてもらったし、船に帰らないと…。)
サクサクと雪を踏む小気味のいい音を響かせて、未だ夢の中にいるベポのもとへと近づいた。
安らかな寝顔に悪いとは思いつつ、そっと手を伸ばす。
だけど、彼に触れる前に、その手は宙で動きを止めた。
『ボクはさ、なにがあってもモモの味方だからね。』
「………ッ」
ギュウッと胸が締め付けられ、切なさに目の奥が熱くなる。
ベポ…。
ベポ……ッ。
その大きな身体に、思い切り抱きつき、泣き喚いてしまいたかった。
彼の優しさに甘えて、なにもかも吐き出してしまいたかった。
だめ…。
だめ…ッ。
泣いては、だめ…。
目の奥に溜まり始める涙を必死に飲み込んだ。
優しい彼を、巻き込んではいけない。
泣きつくのは、小さなトナカイの肩でもうやった。
これ以上、誰かに頼っては、甘えてはいけない。
(強く…、なるんでしょう…?)
胸に刻んだ決意が自身を支えてくれる。
「…ベポ、起きて。」
「ん…、んん…。」
モモの呼び声に、ベポは深い眠りから目を覚ました。
「ふ…あぁ…。んー…モモ、魔女との用事は終わったの?」
「ええ。お薬、たくさん分けてもらったよ。すごく良い人だった。」
「そうなんだ…。ふあぁ。」
とてもそうは見えなかったけど。
人は見かけに寄らないものだなぁ、と大きくアクビをした。
「じゃあ、船に戻る?」
「うん、付き合ってくれてありがとう。」
「このくらい、全然……って、あれ? モモ、鼻が赤いよ? どうしたの?」
まるで今さっきまで泣いていたような。
「…この寒さだもの、赤くもなるわ。」
そう言いながらモモはゴシゴシと鼻を擦る。
そんなことをしたら、余計に赤くなっちゃうのに。
「人間って、大変だね。ボクはクマで良かったな。」
「そうね。わたしはベポがクマでも、人でも好きよ。」
そう言って笑ったモモは、目元も少しだけ赤い気がした。