第26章 魔女とトナカイ
モモの歌を聞き、植物は願いの通り雪の下で新たな芽吹きをする。
まるで春の訪れかのように、成長し、積もる雪を押しのけた。
「す…すげぇな、モモ。今の、なんだ?」
モモを中心として、しゅるしゅると成長する植物たちを目の当たりにし、チョッパーはそれはもう驚いた。
「……歌よ。」
「歌…? 歌ってのは、こんな魔法みたいなことができるんだなー!」
チョッパーは無邪気な子供のように、瞳をキラキラさせる。
「なあ、おれにも教えてくれ…--」
立ち尽くしたまま、こちらを振り向こうとしないモモの前に回り込んだ。
しかし、彼女の思いがけない表情に、思わず言葉を失ってしまう。
「……泣いてるのか?」
そう、モモの金緑色の瞳からは、透明な涙がボロボロと溢れ出ていた。
「…ぅ…、チョッパー…!」
自分の前で呆然とする小さなトナカイに、モモは堪えきれず抱きついてしまった。
「…ど、どうしたんだよ。腹でも痛いのか?」
え、えっと、そういうときはな…と慌てる彼に構わず、ぬいぐるみのような肩にに顔を押しつけた。
ヒスイも心配そうに覗いている。
「ひっ…く…。チョッパー…、あなた…夢はある…?」
「え…?」
嗚咽を漏らしながらも、モモは尋ねる。
「夢…。」
あるさ、もちろん。
「おれの夢は…--」
立派な医者になること?
いいや、それは夢ではない。
自分は医者にならねばならない。
それはもう、約束なのだ。
だとしたら、自分の夢は…。
『お前はいつか、海に出ろよ! なあ、チョッパー!』
愛する恩師の声が脳裏をよぎる。
「おれの夢は…、いつか、海に出ることだ! 広い海に出て、世界を…この目で見るんだ…!」
力強く答えるチョッパーの夢を、モモはしっかりと聞いた。
「そう…、そっか…。あのね…、わたしにも…あるの。」
絶対に叶えたい夢が。
世界一の薬剤師になること。
それがわたしの夢。
でもね。
本当は…、もうひとつあるの。
あのね、
わたしの夢は…--。