第26章 魔女とトナカイ
「あなたは、その青い鼻が嫌いなの?」
モモの問いにチョッパーは「え?」と押し黙った。
『このヘッポコ青っ鼻!』
そう言ってチョッパーを呼ぶ人はもういない。
でも…。
「…嫌いじゃないよ、おれ。」
「そう、じゃあいいじゃない。世の中に“普通”の定義なんて決まってないんだから。」
モモにとっては、金緑色の瞳と、セイレーンの歌声が“普通”だ。
「お前…、変なヤツだな。」
「よく言われるわ。」
それは褒め言葉として受け取っておいた。
話を聞いてみると、チョッパーはドクトリーヌのお使いで、森へ薬草を採りにきていたらしい。
「薬草ね。わたしもさっき頑張って採取してきたけど、やっぱり雪の中じゃ量は多く採れないわ。」
とてもじゃないが、自生するものだけでは足りない。
「うん。だから、ドクトリーヌは自分で育ててるよ。」
本当は輸入という手が1番有効だと思う。
だけど、この国の状況からして、それは難しいだろう。
「ねえ、チョッパー。この国って、おかしいよね。」
「え…?」
「医療を盾に恐怖政治を行うなんて、国としてどうかと思うもの。」
「それは…、おれもそう思うけど。」
チョッパーの恩師 ヒルルクは、この国を変えようとして、その最中に命を落とした。
「…でも、国民は誰も立ち上がらないのね。」
内乱が起きればいいってものじゃない。
そんなことはわかっているけど、このままではいつか治せる病気で死人が出てしまう。
「ドクターは言ってた。この国は、病気なんだって…。」
ポツリとチョッパーが呟く。
彼の言う“ドクター”とは、ドクトリーヌとは別の人だろうと、なんとなく想像ができた。
できることなら、その病気を治す手伝いがしたい。
だけど、ローの言うとおり、外からやってきた自分たちが掻き回すだけではダメなのだ。
ちゃんと国民が、自分たちで立ち上がらないと。
(それに…、わたしは…もう…。)
モモはそっと目を閉じた。