第26章 魔女とトナカイ
「いいえ。このキノコは確かに毒キノコだけど、処方の仕方によっては薬になるのよ。」
「う、嘘だ! そんなこと、どの本にも書いてねぇぞ!」
本…?
彼はトナカイなのに本まで読むのだろうか。
そういえば、ドクトリーヌはベポのことを「チョッパーの友達」って言っていたような…。
「…もしかして、あなた、チョッパー?」
「……!! な、なんで おれの名前を知ってんだ!?」
やはり、彼がチョッパーらしい。
確かに“変な生き物”だ。
「わたしはモモ。今、ドクトリーヌの家から来たの。」
「ドクトリーヌの…?」
「ええ。わたしは薬剤師だから。」
チョッパーの目がジトッとこちらを見る。
きっと、お前なんかが? とでも思っているのだろう。
「…とにかく、それは捨てろよ。毒キノコだぞ。」
「大丈夫よ。」
「ダメだったら、おれはそのキノコを食べて…死んだ人を見たんだ!」
堪りかねて飛び出してきたチョッパーが、キノコを奪い取ろうと跳ねる。
「わ…ッ」
思いのほか高く跳ばれ、角が身体に当たりそうになる。
「きゅきゅーッ」
怒ったヒスイが触角を振り、チョッパーを叩き落とした。
「うわッ」
ドスンと大きく尻もちをつく。
慌ててチョッパーを抱き上げた。
「ダメよ、ヒスイッ。…大丈夫?」
「いててて…。…って、下ろせよ!」
腕の中でわたわたと暴れる。
やっぱり男の子を抱っこするのはいけなかっただろうか。
急いで下ろした。
「…アミウダケはね、ガレオスサボテンっていうサボテンと一緒に55分煎じると毒素が抜けるのよ。」
そうすることで高い薬効を持つ生薬へと変わる。
「そんなことドクトリーヌだって言ってなかったぞ!」
「チョッパーは、この島から出たことがある?」
なおも疑わしげに見るチョッパーに尋ねる。
「…おれはトナカイだぞ、あるわけないだろ。」
「それなら、いつか出てみるといいわ。世界には、いろんな知識が溢れているから。」
モモがまだ見ぬ薬草も、いっぱいあることだろう。