第26章 魔女とトナカイ
「…戻りましょう。」
荷物を全部置いてきてしまった。
ベポも起きたら心配するだろう。
ヒスイを抱き上げ、来た道を引き返そうとした、その時…。
「お…お前…! ちょっと待て!」
どこからか自分を呼び止める声がする。
「……?」
不思議に思って振り返ってみるけど、誰もいない。
(空耳…?)
風の音が声のように聞こえたのだろうか。
はっきりと人の声に聞こえたのだが、そう納得することにする。
そして再び歩き出そうとした時…。
「ま、待てって言ってんだろ、コノヤロー!」
今度こそ、確かに聞こえた。
もう一度振り返り、声の元を確認すると、身体の2割程度を木陰に隠したタヌキがこちらを見ていた。
(なんで微妙に隠れるのかしら…。)
白クマの考えは割と理解しているつもりだけど、タヌキの考えはよくわからない。
「なぁに、タヌキさん。」
「タヌキじゃねぇよ! トナカイだ!」
ほら、角!
といって可愛らしい帽子から突き出た角をアピールしてくる。
(トナカイ…、見たの初めて。)
もうちょっとシカっぽいものを想像していたけど、実際はこんなものらしい。
「ごめんなさい。…それで、なにかご用?」
「……!」
あっさりと返事をするモモに、トナカイを名乗る彼はビクビクと驚いた。
「お腹空いてるならゴメンね。今、なにも持ってないの。」
「ち、違ぇよ! お前の持つそのキノコ、毒キノコだぞ!」
ああ、とモモは自分が手に持つキノコを見た。
「アミウダケのこと? そうね、毒キノコよ。」
「し、知ってんのか…。なら早く捨てていけよ!」
彼にはアミウダケにひどいトラウマでもあるらしい。
忌々しげにこちらを見ている。