第26章 魔女とトナカイ
どれだけ歩いたことだろう。
気づけばずいぶん離れてしまった。
歩き疲れた足が痛い。
モモはそのまま雪の上へと倒れ込んだ。
頬に当たる雪が冷たい。
「きゅきゅ…?」
倒れたまま起き上がらないモモを、ヒスイが心配そうに覗き込む。
「ねえ、ヒスイ。わたし、どうしたらいいのかな。」
「きゅう…。」
そんなことをヒスイに聞いても仕方ないのに、モモは誰かに問いかけずにはいられない。
(冷たい…。)
じわじわと身体を冷やす雪に、自分の中のなにかが、「冷やしちゃだめ!」と叫んだ。
反射的に身体を起こす。
わたしは…、わたしは、なにを弱気になっているの?
強くなるって決めたじゃない…。
弱さに甘えそうになる自分を叱咤した。
身体についた雪を強く払いながら起き上がる。
「……あら、あれは。」
ふと視界が特徴的な赤い色を捉えた。
「……アミウダケ!」
思わず駆けていった。
もっと険しい岩場や崖裏に自生する珍しいキノコ。
猛毒として名高いが、とある薬草と決まった時間煎じることで、高い薬効を持つ生薬となることをユグドラシルの知恵が教えてくれた。
「こんなところで出会えるなんて、運が良いわ。」
見るからに毒々しい色をしたキノコを、躊躇なくもぎ取った。
そうしたところで、ハッとした。
(今…わたし、なにを考えていた?)
このキノコをどう活用しようか、栽培することはできないのか。
薬のことしか考えていなかった。
そう思ったら、おかしくなった。
「ふ…ふふふ、あはは…!」
キノコ片手に笑い出す自分は、誰かに見られたら頭の正常さを疑われるだろう。
「きゅきゅ…ッ」
現にヒスイは、ついにモモがおかしくなったのかと右往左往している。
「違うわ、ヒスイ。…大丈夫。」
こうやって、薬のことを考えられるうちは大丈夫。
こうやって、笑えるうちは大丈夫。
だって、わたし。
なんにも失っていないんだもの。