第26章 魔女とトナカイ
ドラムロッキーの麓までたどり着いたローたちは、断崖絶壁の山を見上げた。
「ひ、ひえぇ~…、高っけぇ…。」
これはとてもじゃないが素手では登れない。
「船長、どうします? どこかに王国のヤツらが上り下りする道がありそうッスけど。」
「そんなもん使ったら、連中にバレるだろうが。」
今回はあくまで穏便に事を進めたいのだ。
「ざっと5000メートルか…。だいぶ体力を削ることになるが、仕方ねェ。」
“ROOM”
ローは手を広げると、普段張るサークルとは比べようもないくらい、大きなサークルを張った。
その大きさはドラムロッキーを飲み込み、頂上に立つであろう城をも包んだ。
“シャンブルズ”
一瞬のうちに3人の身体は山頂の小枝や氷塊と入れ代わり、気がついたときには城付近に聳える樹の上にいた。
「わ…とっと…。」
雪道から一転、不安定な樹の上。
足場が大きく変わり、バランスが崩れそうになるのをシャチとペンギンは必死に堪えた。
「ちょ…、船長、やるならやるって言ってくださいよ!」
「静かにしろ。見張りに気づかれる。」
ローに指摘され、慌ててシャチは口元を押さえた。
さすがに城の周囲には警備兵がいる。
「…夜になるまでここで待機だ。」
最悪、帰りも先ほどと同じ方法で脱出することになる。
今は少しでも、体力を回復しておきたい。
ローは懐から小さな酒瓶を取り出した。
中身はモモ特製の薬酒。
滋養強壮・疲労回復の効果があり、ローのような能力者には貴重な代物だ。
太い枝に寝転がるように背を預けると、グビリと喉を鳴らして薬酒を胃の中へ流し込む。
すぐに身体の内側からポカポカと暖かくなり、血行が巡るのがわかる。
今ごろ彼女は、船でなにをしているだろうか。