第26章 魔女とトナカイ
モモは抗生剤が入った瓶を手にすると、先ほどのドクトリーヌと同じように、キュポンと栓を開けた。
手の甲に垂らすと、それを舐めようとする。
香りや舌で薬の成分を当てるのは、モモの得意とすることだったから。
しかし、その時--。
「お止め!!」
バシン! と音が鳴るくらい、薬を垂らした手を強く叩かれた。
突然のことに驚いて薬瓶を落としそうになり、慌ててテーブルに戻す。
「な、なにするんですか! 危なかった…。」
さすがにこれにはドクトリーヌへ非難の眼差しを送った。
しかし、彼女は彼女で、信じられないといったふうにこちらを見る。
「バカかい、お前は…! あたしの抗生剤は、効果が強いと言ったばかりだろう!」
ものすごい剣幕で怒鳴られ、呆気にとられる。
(ちょっと舐めようとしただけじゃない…。)
確かに、注射針で摂取するタイプの薬だし、舐めるのは正しくないけど、成分を確かめるためにそうするのは よくあることだ。
「成分を確かめようとしただけですよ?」
叩かれてヒリヒリと痛む手の甲を撫でる。
もし成分を知られたくないのなら、モモに渡さなければ良かっただけのこと。
「…まさかとは思うが、お前、気づいていないんじゃないだろうね。」
「なににです?」
意味がわからない、といったふうなモモにドクトリーヌは信じられないとため息を吐いた。
「お前はそれでも医療に携わる人間かい…。」
だから、なんだというのだ。
「お前は…---」
「………え?」
手の力が抜け、腕に抱いたヒスイを落とした。
家の中は暖かいというのに、一気に血の気が引き、冷たくなっていくのを感じた。