第26章 魔女とトナカイ
「そうです…。わたしは薬剤師です。だから、仲間が病気になったとき、わたしが薬を作らなきゃいけないんです。」
だけど、手元に材料がなければなんの意味もない。
「ヒッヒッヒッ、その意気込みだけは買ってやるよ、小娘! けど、お前、金はあるのかい? あたしの薬は高いよ?」
「お金は……。」
正直、ない。
必要な買い出しをするときは、いつもローが一緒にいるし、モモは財布を持たない。
たまに自分の薬草を売って小銭を稼ぐが、最近はそんなことをするヒマがなかったし、大概その場で違う生薬を買ってしまうのだ。
「お金は…、ありません。」
「話になりゃしないね。」
正直に言うモモに対して、ドクトリーヌはズバッと切り捨てた。
「なので、物々交換しませんか!?」
出ていけ、と言われる前にモモは素早く言い放った。
「…物々交換だって?」
「はい。」
「あたしの薬となにを交換しようってのさ。まぁ…、その指輪なら話に乗ってやってもいいけどね。」
ドクトリーヌはモモの左薬指に光るスターエメラルドを指した。
誰が見ても価値があるものだとわかる。
「これはダメです。」
これを売るくらいなら、自分の臓器を売った方がマシというもの。
「じゃあ、なにを出す?」
「…コレです!」
ドン、とモモはカバンから取り出した酒瓶を突き出す。
「なんだい、こりゃ。」
「薬酒です。わたしが作りました。」
「薬酒ゥ?」
ええ、とモモは自信満々に笑う。
「わたしの薬酒は世界一です。どんな美酒よりも価値がありますよ。」
だって、歌で育てた愛する薬草を使い、歌を聞かせて成熟させたもの。
セイレーンである自分にしか作れない、最高の薬酒なのだ。