第26章 魔女とトナカイ
家の中はツリーハウスと思えないくらい暖かかった。
なんと暖炉まで設置されている。
「あたしゃ、Dr.くれは。ドクトリーヌ、そう呼びな。」
魔女の名前を教えてもらい、「はい」と頷いたところで、暖かさにつられ、ヒスイが懐から飛び出してきた。
「きゅい!」
突如現れた緑の生き物に、ドクトリーヌは眉をひそめる。
「なんだい、この生き物は。」
「ごめんなさい、この子はヒスイ。わたしの相棒です。」
暖かさに喜び、ぴょんぴょこ跳ねるヒスイを捕まえ、胸に抱く。
「…まあ、いいさ。変な生き物にはあたしも慣れてる。」
「……?」
家の中には彼女以外、誰もいないようだが。
外出中なのかもしれない。
「で、なんだって?」
用件は? と尋ねるドクトリーヌに、モモは本来の目的を思い出した。
ツリーハウスの珍しさに目を奪われている場合ではない。
「すみません、薬を分けてもらえませんか? まさかこの島に薬屋さんがないと思わなくて…。」
「アンタ、薬剤師かい。」
「え…ッ」
そんな素振りを1度も見せなかったのに、どうしてわかってしまったのだろう。
「ナメんじゃないよ。手を見ればわかる。そのすり粉木のタコは、そうそうできるもんじゃない。」
薬剤を粉末にする際、すり鉢を使用するが、毎日長時間扱うために、モモの手には独特なタコができている。
(この一瞬で、そんなことまでわかっちゃうんだ。)
確かに家の中が暖かかったから手袋を外したけど、そんなところまで見られているとは夢にも思わなかった。
しかも採取に夢中になって、若干霜焼け気味の赤い手を。
(この人、すごい…。)
大した会話をしなくても、技術を見なくても、彼女が凄腕の医者だということは、すぐにわかった。