第26章 魔女とトナカイ
「あ、あの…魔女さんですか?」
そういえば、モモは魔女の名前を知らなかった。
「…誰だい、アンタは。」
「あ、すみません。わたしは旅の…者です。モモと言います。あっちはベポです。」
旅の薬剤師、と言ってしまいそうになったが、なんとか飲み込んだ。
一応ローと約束したのだ。
迂闊に名乗らない方がいい。
「フン…、旅人がウチになんの用さね。」
「その…、無理は承知なんですけど、薬を分けていただけませんか?」
薬草ももちろんだが、消毒液や麻酔薬などもできれば欲しい。
ずうずうしいお願いだというのは、百も承知だ。
「薬だぁ…? なんだい、仲間に病人でも…--」
不意に彼女は言葉を切った。
じっくりとモモを見つめる。
「……?」
値踏みされるように眺められ、居心地の悪さに身じろぐ。
「いえ、あの…病人はいないんですけど、これからの船旅のために、用意しておきたくて。」
「…入んな。」
クイッと顎で家の中を指し示され、とりあえず お邪魔することは許された。
「アンタは外で待ってな! ウチはクマが入れるほど、広くないよ。」
吹っ飛ばされた衝撃から、ようやくのそりと起き上がったベポに言い放った。
「ベポ、ごめんね。ちょっと待っててくれる?」
「アイアイ、なにかあったらすぐに呼んでね。」
ちょっとあのバァさん苦手…とげんなりしたベポは、近くの樹に背を預け、のしりと腰を下ろした。