第26章 魔女とトナカイ
「……きゃッ」
採取に夢中になっていると、ついに足を滑らして転んだ。
「きゅきゅぃ!?」
ヒスイが驚いて声を上げ、駆け寄ってくる。
「モモ! 大丈夫? だから言ったのに…。」
いてて…、と尻餅をついた箇所をさする。
そのおかげて興奮した頭が冷めた。
「ごめんね、ベポ、ヒスイ。ちょっと興奮しちゃった。」
踏み入れたことのない未知の世界に少々はしゃぎすぎてしまった。
「もう、心配したよ…。そろそろ船に帰ろう?」
「うーん。」
珍しい薬草はたくさん手に入れることはできたが、日常的に使うオーソドックスな薬草がまだまだ不足している。
やはりそういう薬草は、自生だけに頼るのは難しいのかもしれない。
(森の魔女さんに、分けてもらえないかしら。)
医者を名乗るくらいだ。
必要最低限の薬は所持しているはず。
「あれ、なんだろう…? あの樹、なんだかおかしいね。」
ベポの言葉に顔を上げると、確かにおかしい。
森に聳えるひときわ大きな樹には、ドアや窓が付いており、なんだか家のようだ。
「もしかして、魔女の家かな…。」
恐る恐る言われたベポの言葉に、ドキリと胸が鳴る。
(ほ、本当に見つけちゃった…。)
酒場の店主は関わり合いになるな、と助言をしてくれたけど、今のモモには魔女の助けが必要だ。
「モモ、船に帰ろうよ。」
「……。」
グッと恐怖を堪え、魔女のツリーハウスへと足を進めた。
「えッ、行くの? 止めようよ、魔女だよ?」
「な、なに言ってるの。ただのお医者さんよ…--」
そう自分で言って、ハッとした。
(そうよ、ただのお医者さんだわ。)
オバケでもなければ、怪奇現象でもない。
ただの変わったお医者さん。
なにも怖がることはないじゃない。
モモが苦手なのはオバケだけ。
“魔女と呼ばれるお医者さん”は恐怖の対象ではないのだ。
自分の中で答えを見つけると、あっという間に冷静になり、ズカズカとツリーハウスへ向かった。