第26章 魔女とトナカイ
「モモ、森には怖い魔女がいるんだよ? 本当に行くの?」
「……!」
これには良い反応があった。
ピクリと表情を強ばらせたのをベポは見逃さない。
だけど、それも一瞬のこと。
「…魔女っていうのは、ものの例えよ。ご高齢だからって、そんなふうに呼ぶのは良くないわ。」
「どうして魔女じゃないって思うんだよ。」
ベポも引けない。
ここはなんとしてもビビッて欲しいところ。
「だって、わたしなんか“セイレーン”よ?」
歌で海の男を誘い、たぶらかし、船を沈ませる妖精。
「ヒドいと思わない? わたしは船を沈めるどころか、誰もたぶらかしたり、誘ったりしてないのに。」
不名誉なネーミングに憤慨する。
「え…、でもいつもキャプテンをたぶらかしてるよね。」
「………はい?」
ベポとしては なんの悪気もない言葉だったのだが、それは稲妻のような衝撃をモモにもたらした。
た、たぶらかしてる。
わたしがローを。
少なくても、ベポにはそう見えているのか。
(じょ、冗談じゃないわ…!)
たぶらかされ、振り回されるのは、いつだって自分の方なんだから!
ぷるぷると震え、みるみる顔が赤くなってきたモモに、ベポは本能的に「マズイ!」と感じた。
どうやら地雷を踏んだらしい。
「え、えと…モモ! 森、行こうか。うん! そうだよね、ボクがついてるんだから大丈夫だよ!」
今ここで爆発したら、どうやって宥めたらいいかわからない。
これだから普段怒らない人って怖いんだ。
ベポには「モモのお願いをきく」という方法でしか彼女を鎮められなかった。
(キャプテンはすごいなぁ…。)
今度、どうやってモモの機嫌を直すか聞いてみよう。