第25章 医者がいない島
「まいどあり! お客さん、ソリはご使用になります?」
大量の火薬、燃料を購入したため、荷物はすごい量になった。
これを手で運ぶというのは、なかなか効率が悪そうだ。
「ああ、そうしてくれ。」
「はいよ!」
店主は奥から大きなソリを取り出し、荷物を積み上げ始めた。
それを待つ間、ふと店の外にいるモモのことが気になった。
(怒ってんのか、アイツ…。)
無理もない。
彼女の優しさ、正義感、そして誇りは自分が誰より理解している。
そんな彼女に、薬剤師であることを隠せだなんて、酷だったに違いない。
まして、嘘を吐けなど…。
つい半年前まで言葉を紡げなかったモモは、嘘を吐くことを知らない。
素直で可愛いと思うが、ときにそれは彼女を危険に晒す。
ウォーターセブンのようなことは2度とごめんだ。
ひどいようだが、ここはモモに耐えてもらうしかない。
「お客さん、お待ちどおさま。」
ソリに括りつけた荷物を店主がズルズルと引きずってきた。
確かにこれなら、雪道を楽に進めるだろう。
「ああ。」
ローは店主に代金を手渡す。
早めに島を出たい。
もし、目の前で病に倒れた人がいたら、きっとモモは苦しむだろうから。
せっかくの雪国だが、それを彼女に楽しませてやれる余裕はなさそうだ。
ローは大きなソリを引きずりながら、2人が待つ店の外へと出て行った。