第25章 医者がいない島
「わたしは薬剤師よ。それを隠せというの?」
目の前に苦しんでいる人がいるのに、隠すことなどできない。
「嘘ぐらい吐け。それもできないくらいじゃ、この腐った世界を生きていけない。」
モモは純粋すぎる。
それではこの先苦しむだけだ。
「それとも、なにか。お前はこの国を滅ぼす覚悟があるのか…?」
「--!」
もし王国が自分たちに、モモに目を付ければ、ローは間違いなく叩き潰す。
モモを傷つけるものに、容赦はしない。
今度こそ…。
王国を潰せば、すなわち国の崩壊。
お前は国を滅ぼしてでも、己を突き通すのか…?
ローの目が、そう告げていた。
国を滅ぼす…。
話のスケールが大きすぎて、なにがなんだかわからない。
でも、これだけはわかる。
この国の民は、そんな最低な国王でも、歯を食いしばって従っているのだ。
そこには、きっと理由がある。
今日来たばかりの自分たちが足を突っ込んでいい話じゃない。
『嘘も吐けないようじゃ、生きていけない』
ローの言葉は、モモの胸に深く突き刺さった。
「…あなたの考えに、従うわ。」
わかってる。
いつだって、ローは正しいのだ。
「…店を出るぞ。この島にはあまり長くいたくない。」
さっさと物資を調達しよう。
そう言って、支払いをするために店主を呼んだ。
「まいどあり! あ、そうそう。お客さん…医者のことだけど。実はこの国には王のもと以外に医者を名乗る人間がひとりいるんだが…。」
店主はこれまた言いづらそうに告げた。
「そうなの?」
「ああ。森に住む魔女だ。」
「ま、魔女…!?」
おどろおどろしいワードに身震いする。
「ああ。腕は確かなんだが、こいつがまた恐ろしいババァでな、治療するにあたってほとんどの財産を持ってかれる。悪いことは言わないから、出くわしても絶対に関わらない方がいい。」
念押しするように店主は言った。
あまりの迫力に、ホラー嫌いなモモはゾクリとした。